『クリプトノミコン〈1〉 / Neal Stephenson 』

クリプトノミコン〈1〉チューリング (ハヤカワ文庫SF) クリプトノミコン〈1〉チューリング (ハヤカワ文庫SF)
Neal Stephenson 中原 尚哉
早川書房 2002-04
内容(「BOOK」データベースより)
第二次大戦前夜、プリンストン大学に学ぶ青年ローレンスは、数学への興味を同じくする英国人留学生チューリングと出会う。やがて彼らは、戦争の帰趨を左右する暗号戦の最前線で戦うことに…それから半世紀、ローレンスの孫ランディもネット技術者として暗号に関わっていた。彼は大戦との因縁深いある策謀に巻きこまれていくが!?暗号をめぐり、二つの時代―第二次大戦中と現代で展開される情報戦を描く冒険SF大作。ローカス賞受賞。
Amazonで詳しく見る
by G-Tools

こないだ会った vamoくんから譲り受けた本。手持ちの本が無くなったら読もうと思っていたので、遅くなりました。

続き物なのに一巻だけ?!と言ったら、「全部持ってきたら重いって怒るじゃないですか。面白いと思うんだったら続きもってきます」とのことだった。やっぱり君、わかってるな!

結論から言うと扱ってる題材(暗号とか通信とか)はかなり好きだ。私が今やってる仕事関係も出て来たし、悪くないんだけどなんかこう微妙。どうして外国ものって軍人が出てくると shit! fuck! penis! しかないんだろーか。君たち……。

この続きはもっと面白くなるんでしょうか。話のなかで時代が入れ替わるから、頭を切り替えるのに苦労した。というか今でもたぶん少し混乱してる。どっかでつながるんだろうけどなあ。

続きかあ、うーんうーん。vamoくん、もし次会うことがあって、にょんたブログを見てるようだったら2巻だけもってきてちょうだい。全巻はまだ踏み切れない。

『はじめてのGTD ストレスフリーの整理術 / デビッド・アレン』

はじめてのGTD ストレスフリーの整理術 はじめてのGTD ストレスフリーの整理術
デビッド・アレン(著) / 田口 元(監訳)
二見書房 2008-12-24
内容(「BOOK」データベースより)
あらゆるものを「整理」、リラックスして仕事がこなせる、最速最強の「仕組み」を作る方法―それがGTD!世界で常識のメソッドをわかりやすく解説。
Amazonで詳しく見る
by G-Tools

何回かにょんたブログでも言及しているGTDの本。ネットでやり方は知っていたのだが、本家もちゃんと読んでおくかということで読了。

私がこういう種類(ビジネス本?ライフハック?)の本を読むのは、100冊のうち98冊ぐらいはダメ本なんだけど、2冊ぐらいアタリがある。それを知ることによって、新しい電化製品を手にいれたときのように生活が変わることがあるから。こういうのって人それぞれに合う・合わない方法があるよね。

この方法が自分に合っていたのは、「なんかやらなきゃいけなかったんだけどなあ…」ともやもやした焦燥感が消えるということと、目の前のことだけを片付けるという短期的見方だけじゃなく、長期的に俯瞰した見方を取り入れられること。「いつかやりたい」というカテゴリーをメモっておくのは、どこか人生が楽しくなる。

問題はツールに何を使うかということなんだけど、私も今はそれを模索中。会社と家で両方出来るのがいいんだけど、会社でツールを開いているとプライベートとごっちゃになってね。なんかいい方法はないかなあ。とりあえず家では相変わらずcheck*padを使っている。リストを終了にしてガンガン消していくのが気持ちいい。たまにレビューして内容を確かめることも大切なので、今回の読了を記念してまたリストを大幅に見直してみようかと思います。

私には合っていたやり方。おすすめ。

『オオカミ少女はいなかった / 鈴木 光太郎』

オオカミ少女はいなかった 心理学の神話をめぐる冒険 オオカミ少女はいなかった 心理学の神話をめぐる冒険
鈴木 光太郎
新曜社 2008-10-03
内容紹介
否定されているのに事実として何度もよみがえり、テキストにさえ載る心理学の数々の迷信や誤信。それらがいかに生み出され、流布されていくのか「人間の営み」としての心理学のドラマを読み解く!
Amazonで詳しく見る
by G-Tools

ビジネスアワーを北島マヤ@ガラスの仮面ばりに演じますわ!と言ってた私ですが、北島マヤというと狼少女ジェーンという芝居の役をこなすために、芝居以外でも狼少女になりきっていたことが思い出されるわけです。単にその題名つながりで選んだだけだったんですが(どんな理由だ!)、まあまあ面白かった。

オオカミ少女の話とは、昔インドで見つかったオオカミに育てられた(と言われてる)アマラとカマラの話。この話がまとこしやかに真実として伝えられているのはおかしい、と。反証は色々と出ているんだけど、「人間はオオカミの乳を消化できない」と読んだあたりで、無理じゃん…と思った。

あとはサブリミナル効果とか、双子の実験(知能は遺伝によるか環境によるか)、母親が赤ちゃんを左胸で抱くのは心音が安心させるからだとか、プラナリアの実験(反射学習をさせたプラナリアを切断して再生したものが記憶を持ち続ける。共食いさせても(!)記憶が移る。記憶物質の話)など、なかなかに興味深い実験に対して、「ここがおかしい」と実験のバックボーンに対して色々と指摘していた。

読んでて思ったんだけど、扱われてる実験の批判を知らなかったら「そうらしいよ?!」と嬉々として人に言いたくなるようなものばかりだった。無知って怖いなあ。「そうだったら面白い/わかりやすい」ということがあるのかもしれない。心音の件なんて、真実だと思ってたもんね。今後はおもしろそうな話を聞いても、どんな実験で・どんなデータが取れたかということを気にしたい。

『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい / マルコム・グラッドウェル』

第1感  「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい (翻訳) 第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい (翻訳)
M.グラッドウェル(著) 沢田 博 阿部 尚美(訳)
光文社 2006-02-23
出版社/著者からの内容紹介
 理由はわからないけど「これだ!」と思ったり、説明できないけど「なんか変」と感じたことはないだろうか?しかも一瞬で。人間には、理屈を超えてわかったり、感じたりする瞬間・能力がある。心理学で注目を集める「適応性無意識」である。本書ではそれを「第1感」(原題はblink=ひらめき)と命名した(略) データを集め、熟考を重ねた判断がまちがいで、最初の瞬間的判断が正しいことはあるのだ。登場するエピソード、心理学実験を読むだけでも面白い不思議な本である。
Amazonで詳しく見る
by G-Tools

なんで読もうと思ったんだっけなー。ネットの書評だったかなー。それとも人の第一印象の理由を知りたかったからだっけなー。忘れた。

第一印象が大事とはよく言われることだけど、先日の入社研修で6秒の挨拶でその人の印象をはかるということをやらされたのね。確かにわずか6秒の間でも、その人への最初の好感度は決まってしまう。あの感覚はいったいなんなんだろう。やはり目に見えない波長でも出ているのだろうか。

本書はそういった直感の例を色々と提示している。第六感ではなくあえての第一感。色々な例を引き合いに出していて面白かった。ex. 古美術が科学的には「古いものだ」と判断しているのに、美術評論家たちは直感で「これは変だ」と思ったとか。結果は贋作だった。

そして話は発展して、無意識に刷り込まれているものについて言及していく。例えば人種差別的なもの。

ヨーロッパ系アメリカ人または悪 | アフリカ系アメリカ人または善 というカテゴリーに以下の言葉(写真)を瞬時に分けるテスト。

傷つける、凶悪、輝かしい、(黒人の写真)、(白人の写真)、素晴らしい

単語が増えるたびに一瞬判断に迷う。「アフリカ系アメリカ人または善」 と 「素晴らしい」が瞬時に結びつかない。しかしカテゴリーを変えるとその反応が変わる。

ヨーロッパ系アメリカ人または善 | アフリカ系アメリカ人または悪

凶悪という単語がすんなり アフリカ系アメリカ人 にカテゴライズされてしまう。私も自分でやってみたけど、表面的な意識と少しばかりのひっかかり(無意識的)があるような気がした。興味ある人はhttps://implicit.harvard.edu/implicit/ で試せるのでやってみるとよいかも。

無意識に影響を与えているものもあるんだな、とこれまた無意識に刷り込んでおくとよいのかもと思った。

『働く理由 99の名言に学ぶシゴト論。/ 戸田 智弘』

働く理由 99の名言に学ぶシゴト論。 働く理由 99の名言に学ぶシゴト論。
戸田 智弘
ディスカヴァー・トゥエンティワン 2007-07-12
内容(「BOOK」データベースより)
「与えられた仕事だけをやるのは雑兵だ。」織田信長(戦国武将)、「生きるために働く必要がなくなったとき、人は人生の目的を真剣に考えなければならなくなる。」ケインズ(経済学者)、「下足番を命じられたら、日本一の下足番になってみろ。そうしたら、誰も君を下足番にしておかぬ。」小林一三(阪急・東宝グループ創業者)。人生の先輩たちに訊いてみよう!
Amazonで詳しく見る
by G-Tools

「働く」ということは、やっぱり自分にとって人生におけるテーマなので、なにか新しいことが見つかるかなと読んでみた。

本書は、いろんな人の仕事に対する一文を抜き出した形式で、たぶんどれかは読んだ人と一致するんだろう。しかし結局私が思ったのは、もうこういう人の考えを読むレベルを過ぎてしまったので(仕事に対しての考え方は)、「まー仕事に対しての捉え方はあれとそれとこれの切り口だよね」という具合。特に目新しいものはなかった。

自分でも意外だったんだけど、考え方がふらふらとしているようである程度の方向性はついてるようだ(繰り返すけど仕事に対してね)。もうちょっと若かったらこの本の一文にすぐ影響されていたかもしれない。でも「へー」ぐらいで流してた。仕事に対してのスタンスはきっと個人個人で違うんだよね。

今のところの私の仕事に対しての考え方は

  • 生きるためにはするしかない
  • 少なくても3年ぐらい(同じ業界で)働いてみないと何も見えない
  • 適職というのは一種の幻想(私にとっては)

このあたりが基本。あと目新しかったのがボランティアに関する一文。

ボランティア活動などが充実感と結びつきやすいのは「遊び」のもつ距離を設定した自由な関わりと、職業労働の持つ社会的連関性とが適度にまざっているからであろう。

これにはなるほど。義務感から離れつつそれでいて社会的連帯感を得られるから、ボランティアの人は生き生きしているのかもしれない。今すぐには考えられないけど、もうちょっと歳を取ったら、またそういう世界との関わりもあるのかもしれないな。

『空海の夢 / 松岡 正剛』

空海の夢 空海の夢
松岡 正剛
春秋社 2005-12
内容(「MARC」データベースより)
万能の天才・空海。空海の思索や活動を通して、仏教の背後の秘密の一端に迫り、中国と日本で仏教が急激な密教性をおびる過程と、それをめぐり空海の展開した方法の解明を試みる。新たに「母なる空海、父なる宗教」を所収。
Amazonで詳しく見る
by G-Tools

密教は好きなのですが、空海についてあまり知らないので読んだらわかるかな、とチョイス。

結果は、私が空海の生い立ちという基本的なことを知らなかったのと、空海を全般的に解説していたので、当初の目的とは違った本だった。しかし、他の箇所でなかなか面白い本だった。著者の空海の切り出し方が、思想・歴史・文化・科学と多岐の方面から捉えていて、私の感性に合っているのかも。著者は誰なんだろうと思ったら千夜千冊の人だったのか。たまにネットで見かけてたよ。

空海のことよりも、ちらほらと語られていたトリビアのようなものが面白かった。例えば、オーム(aum)という聖音は、日本では阿吽(あうん)となって、西洋ではアーメン(キリスト教)になったとか。

あと言語の音と表記の関係。日本語(中国の漢字起源?)は「タマ」という音は「玉」で「霊」で「魂」だったりする。なので、音に隠された意味というか、そういうことが面白いと思った。こういうのはアルファベットの世界であったりするのだろうか。

タオイズムはよく知らないんだけど、少し興味を持った。しかし、当初の目的である空海のディティールがわからんかったので、他の本を読んだほうがいいなあ。ここは司馬遼太郎先生の空海の風景〈上〉 (中公文庫) を読むしかないか。

ちょっと難しかったんですが、いろんな興味が湧いたのでよかったとする。

『ワンダフル・ライフ / スティーヴン・ジェイ・グールド』

ワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語 (ハヤカワ文庫NF) ワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語 (ハヤカワ文庫NF)
Stephen Jay Gould 渡辺 政隆
早川書房 2000-03
内容(「BOOK」データベースより)
1909年、カナダで5億年前の不思議な化石小動物群が発見された。当初、節足動物と思われたその奇妙奇天烈、妙ちくりんな生きものたちはしかし、既存の分類体系のどこにも収まらず、しかもわれわれが抱く生物進化観に全面的な見直しを迫るものだった…100点以上の珍しい図版を駆使して化石発見と解釈にまつわる緊迫のドラマを再現し、歴史の偶発性と生命の素晴らしさを謳いあげる、進化生物学の旗手グールドの代表作。
Amazonで詳しく見る
by G-Tools

これも100冊の一冊。

この分野は古生物学というのだろうか。でも生物学をやる学生なら読むべきなんだろうという本。バージェス頁岩(けつがん)で見つかった化石は、現代の我々には見たことも無いヘンテコな姿かたちをしていた。

私は節足動物というものが好きではない。そもそも昆虫系がヒジョーに苦手だ。延々と節足動物の体節について解説されており、「細かい部分を読み飛ばさないで欲しい」という著者のメッセージがあったにも関わらず、興味が持てないまま惰性で読み終えた。こういうの、好きな人なら面白いんだろうなあ。

しかしこのカンブリア紀の生物、図だけで非常に面白い。ハルキゲニアオパビニア、「なにこれ?!こんな生き物いたの?」と驚くこと請け合い。そして、グールドが言うには、5億数千年の時を経てなぜ人類が残っているかということは、「(環境に適応して)強い種が残った」わけではなくて、単に偶然の産物でしかないという。多数悲運死(decimation)という言葉を使っていたけど、たまたま他の種族が何らかの原因で途絶えてしまっただけであり、地球の歴史をリプレイしたらまた違う種族が残るだろうという話だった。それぐらいバージェス頁岩の化石からは多種多様な生物が見つかっている。そしてそれらは突然消えちゃうんだな。

しかし、この分野を好きな人は特殊な能力があるねえ。虫の足が一本増えようが減ろうが(私にとっては)どうでもいいんだが、彼らにはそこが問題なわけだ。また彼らは化石という平面から、見たことも無い生き物を立体で構成しなおす。ある学者が子供の頃、ジグゾーパズルを裏返して(絵を見ないで)組み立てていたという逸話があって、なるほど…と思った。そういう能力も必要なんだな。

あまり好きではない分野でしたが、こういう機会がないと触れることもないので、まあ良かったかなということにしておく。

『疑似科学入門 / 池内 了』

疑似科学入門 (岩波新書) 疑似科学入門 (岩波新書)
池内 了
岩波書店 2008-04
内容(「BOOK」データベースより)
占い、超能力、怪しい健康食品など、社会にまかり通る疑似科学。そのワナにはまらないためにどうしたらよいか。また地球環境問題など、科学の不得手とする問題に正しく対処するにはどうしたらよいか。さまざまな疑似科学の手口とそれがはびこる社会的背景を論じ、一人ひとりが自ら考えることの大切さを説く。
Amazonで詳しく見る
by G-Tools

もともと疑似科学に興味を持ったのは、「水からの伝言」からでした。水に良い言葉をかけると美しい結晶ができて、そうじゃないと汚い結晶が出来るというやつなんだけど、「いやいや、水は生きてないじゃん!?」と驚いた覚えがあります。なんでそれを正しいと思うのかなあ、なんて考えたりしたんだけど、私も非科学的なことが「あるといいなあ」と思うほうなので、何をして疑似科学と言うのかなと思って読みました。

三つのタイプに分類しているのが面白い。

  1. 第一種疑似科学 — 占い系・超能力・超科学系などの精神世界系
  2. 第二種疑似科学 — 科学を誤用したもの。物質世界のビジネスと強く結びついている
  3. 第三種疑似科学 — 複雑系であるがゆえ科学で証明しづらいもの。環境問題、遺伝子組替など

このなかで第一種はわかるとして、二番目・三番目が難しい。近年知って驚いたんだけど、マイナスイオンなんて科学的な根拠がないらしい。家にマイナスイオンドライヤーあるんですけど……。あとゲルマニウムも医学的な証明はされてないようだ。ゲルマニウム温浴ってなんか温まりそうなイメージあったんですけど。

第三種の複雑系というのは、いろんな要素が絡み合っているから一概には言えずに証明も難しいらしい。地球温暖化問題にしても温暖化してるのは事実だし、二酸化炭素排出量が上がっているのも事実だけど、それらの因果関係の測定が難しい(人間の二酸化排出量がどこまで温暖化に影響を与えているのか測れていない)。異常気象を温暖化のせいというのも、その異常気象が歴史上初めてのことなのか、それとも数十年に一度の頻度で起こるのかなどを区別する必要がある、等。

読後して思ったんだが、私たちは科学の専門家ではないので、メディアから受け取った情報を判断するしかない。それが正しいかどうかというのは自分の判断基準で選ぶしかないんだろうなあ。いまや雑誌やテレビが正しいという時代でもないしね。そのためには自分の知識の底辺を広げる必要があるのかなと考えたりしました。

 

『夜と霧 新版 / ヴィクトール・E・フランクル』

夜と霧 新版 夜と霧 新版
ヴィクトール・E・フランクル(著) 池田 香代子(訳)
みすず書房 2002-11-06
内容(「BOOK」データベースより)
心理学者、強制収容所を体験する―飾りのないこの原題から、永遠のロングセラーは生まれた。”人間とは何か”を描いた静かな書を、新訳・新編集でおくる。 Amazonで詳しく見る
by G-Tools

100冊のなかの一冊。100冊シリーズはさすが。深かった。

この本が読み継がれているのは、「強制収容所の体験記」にとどまらず、「人間」という生き物の本質に踏み込み「生きることとは何か」という問いを考えている点にあると思う。

心理学者である著者が、強制収容所という過酷な状況におかれた人の精神の崩壊への道筋を学者の観点で分析している。それは他者の視点ではなく、ときに自分の心理状態にも言及しており、「他人事」ではない「体験した人」の観点がよく表現されていた。

死んだほうがましという環境で、「何のために生きるか」を考えた著者が到達したのは、「生きることからなにを期待するかではなく、……生きることがわたしたちからなにを期待しているかが問題」ということだった。「生きるとはつまり、生きることの問いに正しく答える義務、生きることが各人に課す課題を果たす義務、時々刻々の要請を充たす義務を引き受けることにほかならない」と著者は言う。

「具体的な運命が人間を苦しめるなら、人はこの苦しみを責務とたった一度だけ課せられる責務としなければならないだろう。(略)だれもその人から苦しみを取り除くことはできない。だれもその人の身代わりになって苦しみを取り除くことはできない。この運命を引き当てたその人自身がこの苦しみを引き受けることに、ふたつとないなにかをなしとげるたった一度の可能性はあるのだ」

どんなときにも与えられた運命にどう対応するかという自由がある。生きるとは死や苦しみを含んでおり、そこに内的な自由があれば人は生きていけるということを体験した著者。発想の転換というか、生きることに期待するんじゃなくて、わたしたちが何を期待されているかという言い回しは興味深かった。

Iちゃんとの飲み会でも話題に出たけど、彼女はこの本を小学2~3年生のころに読んで感想文を書いて賞をもらったらしい。恐るべし……。

『会社人生で必要な知恵はすべてマグロ船で学んだ / 齊藤 正明』

会社人生で必要な知恵はすべてマグロ船で学んだ (マイコミ新書) 会社人生で必要な知恵はすべてマグロ船で学んだ (マイコミ新書)
齊藤 正明
毎日コミュニケーションズ 2009-02-21
内容紹介
ある日、ひょんなことから、マグロ船に乗るハメになった会社員の私。一度、出港したら40日以上も陸地に戻ることはおろか、逃げ出すこともできない。病院もなく、遊興施設もなく、コンビニもない、陸上とは180度異なる船上での生活は、極度にストレスの溜まりやすい空間だが、そんな場所だからこそ、漁師たちのコミュニケーション術やストレス対処法があった。大自然に立ち向かい、常に命を懸けで仕事に取り組む漁師たちの口からは、時に重みのある人生哲学も語られる。船上で目にし、耳にしたこととは一体……。
Amazonで詳しく見る
by G-Tools

タイトルにインパクトがありますよね。読みやすい本でした。

著者が描くまぐろ漁船の乗組員の言葉がいい。マグロが獲れる日と獲れない日でやる気は変わらないのか?という著者の質問に

「あー?いいことが起きたら喜んで、嫌なことが起きたら暗くなる。それじゃ犬と同じじゃねーか。人間はの、感情をコントロールできるんど」

なんていう回答などは深い。一喜一憂しがちな私にはガツンと来たね。

まぐろ漁船というと、非常につらそうな職場のイメージがあったけどそうじゃない、彼らの哲学に基づいた仕事への取り組み方が目から鱗でした。

多少、著者がこじつけ的に会社の仕事に結び付けていると感じる箇所はあったけど、知らない世界の仕事は面白いね。