『江戸川乱歩傑作選 / 江戸川 乱歩』

江戸川乱歩傑作選 (新潮文庫) 江戸川乱歩傑作選 (新潮文庫)
江戸川 乱歩
新潮社 1960-12
<裏表紙より>
日本における本格探偵小説を確率したばかりではなく、恐怖小説とでも呼ぶべき芸術小説をも創り出した乱歩の初期を代表する傑作9編を収める。特異な暗号コードによる巧妙なトリックを用いた処女作『二銭銅貨』苦痛と快楽と惨劇を描いて著者の怪奇趣味の極限を代表する『芋虫』、他に『二癈人』『D坂の殺人事件』『心理試験』『赤い部屋』『屋根裏の散歩者』『人間椅子』『鏡地獄』。
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*画像はカスタマーさん提供だそうです。

うわー、これって1960年出版なのか。vamoくんが「二銭銅貨」と言ってたので、暗号つながりで読了。南無阿弥陀仏とはなかなか面白い発想ですね。

しかし久しぶりに乱歩を読んだんですが、なんかすごい衝撃でした。こんな雰囲気だったはずという記憶がありつつも、今読むとなんというんでしょう。この退廃グロテスクな雰囲気。特に、「芋虫」と「人間椅子」がキタ感じでした。人間椅子って、どうもイカ天を思い出してしまう世代なんですが、向こうがこっちに影響受けてるんですからさもありなん。

自分なりに、何が乱歩文学のこの雰囲気を作り上げているんだろうと考えたんだけど、(この文庫に限っていえば)焦点があたっている人間が結構卑屈なんだよね。卑しい身分というか(平民だけども)。しかし、その人たちが彼らの美意識で世界を作り上げてしまうところに、畏れおののいちゃうのかなあ。普段目に入れてない(=意識してない)人の裏にある狂気、といったギャップ感が怖さを演出しているのかなあと。今の社会情勢に似てるかもね。普通に見えた人があんな犯罪を……みたいな。

作品と作家の人となりは別とは言いますが、乱歩の趣味嗜好・性格・人生変遷がかなり気になった何十年ぶりかの再読でした。

『モロッコ水晶の謎 / 有栖川 有栖』

モロッコ水晶の謎 モロッコ水晶の謎
有栖川 有栖
講談社 2005-03-08
出版社 / 著者からの内容紹介
推理作家・有栖川有栖の眼前で起きた毒殺事件に、臨床犯罪学者・火村英生が超絶論理で挑む表題作ほか、クリスティの名作「ABC殺人事件」をモチーフに書かれた、連続挑戦予告殺人を追う「ABCキラー」、誘拐殺人の陰に潜む悲劇を描く「助教授の身代金」など、研ぎ澄まされた論理が光る有栖川本格全4編を収録。
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あら、火村先生のシリーズ新しいの出ていたんだ、と思ったら2005年だった。十分古いね。知らなかったわー。

国名シリーズはどこまで読んでたか忘れたんですが、適当に読んでいたと思います。火村先生がどうして他人を殺したいと思ったことがあるのかはこのままずっと謎のままがいいと思うよ。

短中編集なので、ミステリーとしては軽く読める。でも本格推理とか思わないほうがいいなあ。もうこのシリーズはキャラが立ってるので、それだけでいいじゃん?と採点はかなり甘いです(=たいしたトリックでも事件でもない)。しかし意外にショートショートの「推理合戦」(実に5P)など面白かった。そういう切り口もありか。

しかしミステリーは長編に限ると思うので、「このミス」(「このミステリーがすごい」)あたりをチェックして新作家を捜してみようかなあ。

追伸; と思ってwikiを見たら(リンク参照)、全然知らない作家&作品ばかりだった。やばい!!

『闘うプログラマー(上・下) / G.パスカル ザカリー 』

闘うプログラマー〈上〉―ビル・ゲイツの野望を担った男達 闘うプログラマー〈上〉―ビル・ゲイツの野望を担った男達
G.Pascal Zachary 山岡 洋一
日経BP出版センター 1994-12
内容(「BOOK」データベースより)
ビル・ゲイツの野望を実現するために、マイクロソフトに「伝説のプログラマー」が引き抜かれた。デビッド・カトラー。屈強な肉体と軍隊顔負けの厳しい職業理念をもつ、闘争心のかたまりのような男だ。そして、彼を追って移籍した腹心の部下たち。新プロジェクトを担う外人部隊が秘密裏に結成された。自由闊達なマイクロソフトの「キャンパス」内で、異分子たちによる空前のパソコンOS開発作戦「NT」の幕が切って落とされた…。
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MS帝国のビルゲイツくんもいよいよ引退(会長職だっけ?)だそうですね。だからというわけではないんだけど、Windows NT を作った人々のドキュメンタリー調の作品を読んでました。個人的に Windows NTはそんなに使ったことがなくて、私が働き始めたころには安定しているサーバーとして出ていたような気がします。それでもよくクラッシュしてたけど。

いやいやいや、すごいデスマーチですね。これはこの業界の人なら背筋が凍る雰囲気を感じて頂けるんじゃないでしょうか。バグにつぐバグ。迫る納期。かさむ要望。壊れる家庭、恋人、友人関係、自分自身……(笑)

しかし人数の多い、大きいプロジェクトを進行するということはこういうことかと、経験のない自分には面白かった。視点が全然違うのね。プロジェクトメンバーが数人の天才だけだと流儀がぶつかり合い、人数が多いとまとまりがとれなくなる。人々の仲裁役がいて、テスターがいて、それぞれの担当部署(グラフィックとかファイルシステムとか互換性とか)の人がいて。リーダーのデビッド・カトラーのすごい意思(口が悪い、態度が悪い、でも腕は一流、ワーカホリック)を見て、こういう人がOSを作っていたのかと驚き。MSからあまりPGで有名な人を聞いたことがなかったので。

惜しむらくは私が読むのが遅すぎたこと。もっとリアルな時代に読んでたら、より「見えた」のかもしれないのになー。今の時代なら何読めばいいんだろ。Web2.0 とかですかね(笑)

『世にも美しい数学入門 / 藤原正彦 小川洋子』

世にも美しい数学入門 (ちくまプリマー新書)

世にも美しい数学入門 (ちくまプリマー新書)
藤原 正彦
筑摩書房 2005-04-06

内容(「BOOK」データベースより)
「美しい数学ほど、後になって役に立つものだ」数学者は、はっきりと言い切る。想像力に裏打ちされた鋭い質問によって、作家は、美しさの核心に迫っていく。
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昨日、学校でLinuxが終ったため、講師のさよなら飲み会をやったのだけど、やはり風邪の身体にはヒジョーにきつかったようで、えらい勢いで酔った。というわけで、今日は家で休んで一日中寝てました。今週は風邪にやられまくり。明日の飲み会もパスしちゃったし、残念だ。

さてそんな体調なんでパソコン弄る気にもならず、珍しく家で読書した。この本は数学者の藤原正彦さんと「博士の愛した数式」の小川洋子さんの座談会をまとめており、非常に軽い内容でした。でもやっぱり「数学は美しい」と連呼してるのをみて、本当にそのとおりだと思ったよ。永遠の真理の美しさと本にはあったけど、例えば「三角形の内角の和が180度」。これはどんな人がどんな場所でどんな三角形を作ったとしてもそうなるんだから、すごい。永遠だよなあ。

あと素数。素数って、こないだ暗号の方式に素因数分解を使っているというのを読んでから結構気になっているんだけど、なかなかすごいやつらだよね。素因数分解で「任意の正の整数に対して素因数分解はただ 1 通りに決定する」というのがすごい。一通りしかないんだよ!?

あと本書で知ったゴールドバッハの問題というのも興味深い。この問題は「6以上の偶数はすべて二つの和の素数で表せる」というものなんだって。6=3+3, 8=3+5, 10=5+5 or 3+7, 12=5+7, 14=7+7 or 3+11 … でもこの問題ってまだ証明されてないんだって。わかる範囲ではオッケーなのに証明されていない。数学は証明がすべてだから、証明されてなければまだ真実じゃないんだよね。ううむ。

本のテーマとして「美しい定理」とあるけど、この「美しい定理」というのがとても大事で、世界が美しい定理で表されるのを見ると、「うわー!」と思うときがある。人類の英知、数学。この楽しさをどーして学生時代にわからなかったかなあ。私は。

『生き抜くための数学入門 / 新井 紀子』

生き抜くための数学入門 (よりみちパン!セ 23)

生き抜くための数学入門 (よりみちパン!セ 23)
新井 紀子
理論社 2007-02

出版社 / 著者からの内容紹介
数学は、わけわかんないこの世界を生きぬくための、ナイフみたいに基本的な道具。「そもそも、それってなに?」から始めて、リアルな答えを探す。数学というナイフの研ぎ方、使い方を伝授。
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ティーンズの棚にあったこの本。数学の考え方を教えてくれ、絵なども多く漫画的でわかりやすかった。しかし、ほんと、数学にはびっくりさせられるんだが、今回も驚きの出来事があったのだ。

0.999….(9が無限大)の場合って = 1 だって知ってました?≒ニアイコールじゃないのよ。=イコール1なの。

?! おかしくないですか?だって0.999…って1じゃないじゃん。1 – 0.999… を考えると、= 0.000…01 と何かしらの差がありそうじゃないですか。でも論理的に考えていくと、それは1になっちゃうのだった。0.999… と 1 の間にどんな数がありますか?と本は問う。んー、たぶん 0.999…95 とか?と考えると、あれ?0.999…95 と 0.999…995だったら後者のほうが1よりに近いよなとなり、それなら 0.999…9995とか…と考えると、9が無限大に続くと、数の大小が定まらなくなっちゃうのだ。

そして何より 1/3 って 0.333…と循環小数になるよね。でも 1/3 * 3 だと 1になる。 つまり 0.999… は 1にならないとおかしい。そういうわけで、数学を論理的に考えると、感覚とは違うことが起こる。──おもしろい。

ま、これは”無限”という概念を取り入れてるからかもしれないんだが、無限とか四次元とか普通の生活をしてると想像しにくいものが「見える」のって訓練が必要なんだなあと思ったよ。

あと後半にsinやcos、数学で美しい式と言われるオイラーの等式 eπi+1=0とか出てきたんだけど、やっぱりよくわからんかった。本当に微分や積分については何を読んでもさっぱりつかめない。数を読むしかないのかー。

まだまだ冒険は続く。

『聖の青春 / 大崎 善生』

聖(さとし)の青春 (講談社文庫)

聖(さとし)の青春 (講談社文庫)
大崎 善生
講談社 2002-05

出版社/著者からの内容紹介
将棋の知識は必要ありません。 村山聖、A級8段。享年29。病と闘い、将棋に命を賭けた「怪童」の純真な一生を、師弟愛、家族愛を通して描くノンフィクション。新潮学芸賞受賞作。 重い腎臓病を抱え、命懸けで将棋を指す弟子のために、師匠は彼のパンツをも洗った。弟子の名前は村山聖(さとし)。享年29。将棋界の最高峰A級に在籍したままの逝去だった。名人への夢半ばで倒れた“怪童”の一生を、師弟愛、家族愛、ライバルたちとの友情を通して描く感動ノンフィクション。
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通学電車のなかで、何度も本から目線を外さなければならなかった。泣きそうだったからだ。

私は将棋について、駒の動かし方ぐらいしか知らないレベルなのだが、昔から羽生名人(今は永世名人か)が好きなので将棋のニュースはなんとなしに気にしていた。そんななかにこの村山聖という名前の棋士は何度か出てきて、「あぁ早くに亡くなっちゃったんだよねえ。名人を狙える人だったらしいねえ」という認識ぐらいでしかなかった。しかし、この本を読んで本当にすごい人だったんだと感じ、彼の鬼気すら感じる将棋に賭けた人生にほとほと感服した。

村山聖は幼いときからネフローゼという病気を患い、死が身近にあった。限られた人生という意識のなかで将棋に出会い、名人になるという目標のためにがむしゃらに生きた。性格的にはかんしゃく持ちだし家族に当り散らしたりライバルに敵意剥き出しだったりしているけど、すべての行動は「将棋」のためであった。

また村山は漫画が好きで自宅に何千冊も貯めていたらしい。その漫画を代わりに買いに出かける師匠のエピソードは非常に心温まる。村山の周りの人々、特に家族や師匠やライバルたちが村山聖をいかに愛していたかがよく伝わってくる。

やっぱりひとつのことを一生懸命やって生きている人は素晴らしい。何度も言うけど、自分はそういう生き方が出来ないので出来る人に憧れるのだが、そのなかでもこの村山聖は特別にすごいと思う。そして将棋雑誌の記者だった著者の文章が(多少小説風だが)見事に彼の人生を描写してると思う。

Amazonの書評でもレビューが50あるうち、★5つが46、★4つが3、★3つが1という高評価のこの本、ぜひぜひ読んでみてください。彼の生き様に「人生ってなんだろう」と考えることしかり。

『開かれた小さな扉 / バージニア M. アクスライン』

開かれた小さな扉 新装版―ある自閉児をめぐる愛の記録

開かれた小さな扉 新装版―ある自閉児をめぐる愛の記録
バージニア M.アクスライン
日本エディタースクール出版部 2008-01
<出版社HPより>
かつて極度の情緒障害のあった子供が、強く健康な人格にまで立直る物語である。物語は主人公ディブスがほぼ2年間ある学校に通ったところからはじまる。最初、彼はまったく口をきかなかった。ときには午前中いっぱい黙って動きもせずにすわっていたり、ほかの児童や教師のことは忘れて勝手に教室内をうろつきまわったりした。そんな主人公ディブスが複雑な人生の過程を体験していく中でしだいに彼の世界を保障するものは彼の外部にはなく、熱心に捜し求めてきた安定の主軸はじつは自己の奥底にあることを発見する。
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新装版が出ているようですが、実は1972年発行とずいぶんと古いので、今の児童心理学の現場では違うのかもしれない。しかし、とても面白い本であった。

これは児童心理学者の著者が行った遊戯療法による、ディブスという自閉症の(症状に近い)子供の治療のノンフィクションの記録である。遊戯療法とは遊びをコミュニケーション、および表現手段として行う心理療法だそうだ。最初、箱庭療法を思い出したんだけど、それはこの遊戯療法から派生したそうで、なるほどどこか似てるはずだ。

「遊びを通して」ということは、子供と一緒に遊んで褒めたり何かを解析したりするのかしら?と思ったら、これが全然違う。アクスラインさんは子供に何も指示しないし、強制しないし、彼の行動を解析することはない。遊戯室で子供が家に帰りたくなくて泣き出すシーンがあるんだけど、そのときにも「ディブス、あなたはここに1時間しかいられないの」と “1時間だけ”という制約をきっちりと守らせ、いっそ冷徹ですらある。そして彼女が遊戯室でしていることは、子供のやっている(言っている)ことを反復しているだけだ。

「把手つける」彼は言った。そして私の鉛筆に手をのばして、ごく慎重に人形の家のドアに把手を描いた。
「ドアには把手がなくちゃと思ったのね?」私がたずねた。
「そう」彼はつぶやいた。彼はドアに錠前も描いた。
「錠前もついた!」
「そうねわかるわ。ドアに把手と錠前をつけたのね」
「鍵でしっかり閉める」彼は言った。「高い高い壁がある。ドアもある。鍵かけたドアも」
「そうね」私が言った。

このディブスの行動にも「鍵」「ドアを閉める」「高い壁」など、心理学的にわかりやすそうなモチーフが出てくるけど、彼女がそれを解析して意味を与えることはない。しかし、本を読み進めるうちに、ディブスは自己を確立し、感情をコントロールし、憎悪や復讐心に対して寛容の気持ちを持ち、まわりとコミュニケートできるようになっていく。この経過が、ディブスの遊びの内容や言葉の端々に現れていく様は非常に興味深い。たぶん、この遊戯療法の意味は以下、ディブスが数年後にアクスラインさんに会ったときの言葉に表れていると思う。

「あなたはぼくのすることを、なんでもしてくれたね」彼はつぶやいた。「ぼくの言ったことを、みんな言って」
「そうよ、そうだったわね!」
「うん。『ここはあなたのお部屋よ、ディブス』って言ったよね。『あなたのものよ。楽しくなさい、ディブス。楽しくなさい。だれもあなたをいじめないから、楽しくなさい』って」ディブスはため息をついた。
「そしてぼくは楽しかった。生まれて初めてだったな、あんなに楽しいことは。ぼく、遊戯室の中にぼくの世界を作ったっけね。覚えてる?」

ディブスにとってアクスラインは、初めて自分のことを理解・見守ってくれる存在であり、閉じこもっていた世界から外の世界への扉だったのかなあ。そして遊戯室という世界で彼は自己を見つめなおしたのかもしれない。ちなみにディブスは当時6歳。「子供だからわからないだろう」と大人が思う以上の深い理解を子供は色々としているんだということを知りました。

かなり面白かったので一気に読んでしまった本。おすすめ。

『一流の勉強術 / 中谷彰宏 鷲田小彌太』

一流の勉強術―勉強が面白くなる53の具体例 一流の勉強術―勉強が面白くなる53の具体例
中谷 彰宏, 鷲田小彌太
ダイヤモンド社 2001-08
内容(「MARC」データベースより)
ムダなことが、1番の勉強だ。勉強のために、借金する覚悟を持とう。他人の言葉を、自分の言葉に翻訳しよう。好きな作家の、精神的ストーカーになろう。勉強が面白くなる53の具体例を挙げる。
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鷲田さんの本を昔読んだ記憶があり、最近はどうなのかと思って手近にあったから読んでみたんだが……がっかり。途中で読むのやめようと思ったんだが、どこがダメなのかをはっきりさせようとツッコミどころを探してるうちに読み終わってしまった。

何が一番ダメだったかって、この中谷って人。私はよく知らないんだが、えらい勢いで本を出しているようですね。この本の形式が対談でもないし、インタビューでもないし、中途半端な形なのが一番苛ついた。鷲田さんの台詞を引用してるんだかコメントしてるんだかわからんし、「中谷さんはそこがすごい」とか持ち上げてるし、中谷さんは自分語りすごいし。ビジネス本系はホント碌なのがないな。

しかしポリアンナ式良かった探しをすると、目次を読むだけで本の内容がわかるというところだ。キーワードとしては結構良いことが書いてあったように思う(インプットはアウトプットのためにある、借金する覚悟がないと勉強なんてできない、難しいことを簡単にするのが哲学であり勉強法だ、とかね)。

読書は99%が抜けていっても1%ひっかかるものがあればいいって言うからなー。まあそこまでカリカリすることでもないか。

『暗号解読 / サイモン・シン』

暗号解読―ロゼッタストーンから量子暗号まで 暗号解読―ロゼッタストーンから量子暗号まで
Simon Singh 青木 薫
新潮社 2001-07-31
<日経BP企画>
暗号技術は解読技術とのせめぎ合いを通じて高度に発展してきた。その歴史的経緯と未来の動向をひも解く読み物。カエサル暗号,ヴィジュネル暗号,暗号機械エニグマ,公開カギ暗号,量子暗号などを追う。
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『あんたごうかいたどくた』(ヒント:狸)

小さい頃、秘密の暗号を兄弟や友達と使いませんでしたか?「3回叩いたら××の合図ね!」みたいな。暗号ってどこかロマンがあるよなあ。人類は古来から暗号を使っており、近年のコンピュータ発展により暗号(セキュリティ)はなくてはならないものとなったその背景や技術を、さすがのサイモン・シンがわかりやすく描いてます。

先日「ビッグバン」を読んで、やっぱサイモン・シンいいなあと再確認したけど、暗号解読を読んでなかったから慌てて読んだのだった。やはり期待を裏切らないわ。実際は上巻・下巻の文庫本で読んだんだけど、上巻の途中の計算説明のあたりで挫けそうになった。が、わからなかったら飛ばしていいのだ科学本、という自己コンセプトでそのあたりは飛ばす。

スコットランド女王メアリー(カトリック)とエリザベス女王(プロテスタント)の確執で、暗号が解けるか解けないかでメアリーの処刑が決まるとはなあ。しかし、あのあたりのヨーロッパ王朝の人間関係は複雑でよくわからん。暗号解読は時に歴史で重要な役割を果たすのですね(戦争時とか)。

更に、LINUXでSSH(セキュアシェル)というリモートコンピュータにアクセスする手段があるけど、これに使われているRSAの公開鍵暗号方式。これの成り立ちを勉強できたのは良かった。どうして鍵が二個あるのか(公開鍵・秘密鍵)いまいちしっくりこなかったのですよ。鍵の配送が歴史的な難問だったのね。素因数分解を使っているからA→Bは簡単だけど、B→Aは難しいのか~。そして暗号の説明でアリス、ボブ、イブが伝統的に使われているのを知った。道理でネットワーク系雑誌の鍵説明時によくこんなキャラクター名が出てくるわけだ。

また暗号とはちょっと違うのかもしれないけど、ロゼッタストーンを用いたヒエログリフの解読や、ミケーネ文明で使われていた線文字Bの解読のくだりも興奮した。古代文明の解読!しかし暗号を解読する技術の一つに頻度分布が使われているというのは自分には新しかった。例えばそれは英語だったら eが一番多く文字に現れ、単語だったらtheとか、一文字だったら a や I などになるとか。なるほどね。日本語でもたぶんよく現れる文字ってあるんだろうな。

古代文明に思いを馳せつつ、近年のコンピュータ暗号を学べた良書でした。ちなみにサイモン・シンのサイトを見たところ、次は「Trick or Treatment? Alternative Medicine on Trial 」ということらしい。なんだろ、薬の話なのかな?民間療法みたいなのを含めるのかしら。なんにせよ楽しみです。

『若き数学者のアメリカ / 藤原 正彦』

若き数学者のアメリカ (新潮文庫) 若き数学者のアメリカ (新潮文庫)
藤原 正彦
新潮社 1981-06
<背表紙より>
1972年の夏、ミシガン大学に研究員として招かれる。セミナーの発表は成功を収めるが、冬をむかえた厚い雲の下で孤独感に苛まれる。翌年春、フロリダの浜辺で金髪の娘と親しくなりアメリカにとけこむ頃、難関を乗り越えてコロラド大学助教授に推薦される。知識は乏しいが大らかな学生たちに週6時間の講義をする。自分のすべてをアメリカにぶつけた青年数学者の躍動する体験記。
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昭和52年に書かれたらしいのですが、そんな古さを感じさせない本。題名から数学者の話を連想してたんだけど、数学は全然関係なく、著者がアメリカという世界に触れて何を思ったかということを率直につづってました。何よりこの著者、文章が上手い。理系の人はどうしても文が固くなると思っていた私が間違いだった(あとで調べたら、「国家の品格」の著者だった)。

さて、初めて日本人が海外で仕事をするときの壁のようなものを著者は上手く描いていたと思う。少なくとも私は著者と似たような思いを抱いたことがあったので(海外での孤独感のみならず、授業の前にシナリオ作って練習したりとか生徒がテスト結果に文句言ってきたとかそういう小さなとこも・笑)、頷ける部分が多かった。

海外に出ると日本を意識する、というのはよく言われることだが、本当にそのとおりだなあと思う。日本人は日本人でしかありえないし、他になる必要もない。でも若いときは功名心や虚栄心や不安や落ち込みなどグルグルするものですよね。それらを率直に表現している著者の若さと素直な文に心を打たれました。