『若き数学者のアメリカ / 藤原 正彦』

若き数学者のアメリカ (新潮文庫) 若き数学者のアメリカ (新潮文庫)
藤原 正彦
新潮社 1981-06
<背表紙より>
1972年の夏、ミシガン大学に研究員として招かれる。セミナーの発表は成功を収めるが、冬をむかえた厚い雲の下で孤独感に苛まれる。翌年春、フロリダの浜辺で金髪の娘と親しくなりアメリカにとけこむ頃、難関を乗り越えてコロラド大学助教授に推薦される。知識は乏しいが大らかな学生たちに週6時間の講義をする。自分のすべてをアメリカにぶつけた青年数学者の躍動する体験記。
Amazonで詳しく見る
by G-Tools

昭和52年に書かれたらしいのですが、そんな古さを感じさせない本。題名から数学者の話を連想してたんだけど、数学は全然関係なく、著者がアメリカという世界に触れて何を思ったかということを率直につづってました。何よりこの著者、文章が上手い。理系の人はどうしても文が固くなると思っていた私が間違いだった(あとで調べたら、「国家の品格」の著者だった)。

さて、初めて日本人が海外で仕事をするときの壁のようなものを著者は上手く描いていたと思う。少なくとも私は著者と似たような思いを抱いたことがあったので(海外での孤独感のみならず、授業の前にシナリオ作って練習したりとか生徒がテスト結果に文句言ってきたとかそういう小さなとこも・笑)、頷ける部分が多かった。

海外に出ると日本を意識する、というのはよく言われることだが、本当にそのとおりだなあと思う。日本人は日本人でしかありえないし、他になる必要もない。でも若いときは功名心や虚栄心や不安や落ち込みなどグルグルするものですよね。それらを率直に表現している著者の若さと素直な文に心を打たれました。