聖(さとし)の青春 (講談社文庫) |
通学電車のなかで、何度も本から目線を外さなければならなかった。泣きそうだったからだ。
私は将棋について、駒の動かし方ぐらいしか知らないレベルなのだが、昔から羽生名人(今は永世名人か)が好きなので将棋のニュースはなんとなしに気にしていた。そんななかにこの村山聖という名前の棋士は何度か出てきて、「あぁ早くに亡くなっちゃったんだよねえ。名人を狙える人だったらしいねえ」という認識ぐらいでしかなかった。しかし、この本を読んで本当にすごい人だったんだと感じ、彼の鬼気すら感じる将棋に賭けた人生にほとほと感服した。
村山聖は幼いときからネフローゼという病気を患い、死が身近にあった。限られた人生という意識のなかで将棋に出会い、名人になるという目標のためにがむしゃらに生きた。性格的にはかんしゃく持ちだし家族に当り散らしたりライバルに敵意剥き出しだったりしているけど、すべての行動は「将棋」のためであった。
また村山は漫画が好きで自宅に何千冊も貯めていたらしい。その漫画を代わりに買いに出かける師匠のエピソードは非常に心温まる。村山の周りの人々、特に家族や師匠やライバルたちが村山聖をいかに愛していたかがよく伝わってくる。
やっぱりひとつのことを一生懸命やって生きている人は素晴らしい。何度も言うけど、自分はそういう生き方が出来ないので出来る人に憧れるのだが、そのなかでもこの村山聖は特別にすごいと思う。そして将棋雑誌の記者だった著者の文章が(多少小説風だが)見事に彼の人生を描写してると思う。
Amazonの書評でもレビューが50あるうち、★5つが46、★4つが3、★3つが1という高評価のこの本、ぜひぜひ読んでみてください。彼の生き様に「人生ってなんだろう」と考えることしかり。